「失敗を恐れないで」学業とスポーツの両立で日本代表選手になったレスリングオリンピアン高谷惣亮さん

2022年12月8日

高谷惣亮さんインタビュー動画

インタビュイー

高谷 惣亮さん

profile

京都府出身。
レスリングが盛んな網野高校(現:丹後緑風高校)時代には、インターハイ・国体・選抜大会・JOC優勝、全日本選手権で2位を記録し、「タックル王子」と話題に。
現在はALSOKに所属し、オリンピック3大会連続出場を誇る。プライベートでは子どもも生まれ、父親+レスリングの監督+パリオリンピックを目指すアスリート+大学院の博士課程という5足のわらじを履きこなしている。

スポーツと勉強を両立できることに魅力を感じた

どのような経緯で進路を決めましたか?

拓殖大学の政経学部経済学科に進学しました。
私自身、最初は大学進学を全く考えていなくて、地元で就職できればいいなと考えていました。
しかし、就職を考えるにも狭い田舎出身だったため、選択肢が少なく、だったら大学でレスリングをもっとやってみようということで、大学進学を決めました。
拓殖大学はレスリングが強く、高校の先生から推薦されて「お前は拓殖大学へ行ったらより強くなる」と言われたことがきっかけで拓殖大学に進むことにしました。
私はレスリングを小学6年生からずっとやってきたのですが、レスリングにあまり固執していないというか「自分は何でもできる」という思いが強かったんですね。
そもそも私の考えとして、スポーツしかできない人間は魅力が落ちると思っていて、やはり勉学もしっかりやって、スポーツもやるというのが、私の理想でした。
大学は様々な授業があるので、自分で選択して単位を取得するのが新鮮で、大学時代は授業等を含めとても楽しめましたね。

大学で学んで良かったと思うことは何ですか?

私にとっては授業そのものがプラスになったと思っています。
大学で学んだことをどう活かすかというのは、いろんな分野、人によって変わると思うのですが、私で言うと、ゲームの理論や確立の問題など「面白いな」と思う授業はあったものの、その内容が今の自分に役立っているかと問われると、自信を持ってプラスになったとは言えません。
ただ、論文の書き方やレポートの提出など、一般的な仕事に近いようなことをやるのはすごく勉強になりましたし、大学院の修士を出ているのですが、大学院で勉強する時にも文章の書き方、授業の聞き方、ノートの取り方などの大学で学んだ基礎は役に立っているなと感じています。

大学時代を振り返って、あの時やっておけば良かったと思い返すことはありますか?

たくさんあるのですが、その中でも語学はもう一度勉強し直したいです。
今の時代はSNSが流行っているので、国内だけでなく海外の選手とも簡単に連絡を取ることができるんですよね。
私も海外の選手とのやり取りする時に、英語を使って色んな話を教えてもらっているのですが、大学当時からそういうことをしておけば、より海外のトレンドを取り入れて「世界ではこういう技が流行っているよ」とか「あの技に対してはこの技で対策できるよ」という競技に関する情報を集められたのではないかと考えています。

やはり大学生は若いんですよね。
部活動もあるので「勉強よりもレスリングをやらなきゃいけない」とか、練習をしていると「ちょっと授業行くのしんどいな」とか。
父親が自分の息子に「若い時に勉強しておかなきゃダメだぞ」と言っても、子どもは「そんなことわかってるよ」と受け流すと思うのですが、今になると親がそれを言いたくなる気持ちはすごくわかるんですね。
私も今更ながら「勉強って楽しいな」と感じるので、学び直したいことは本当にたくさんあります。

学ぶことで競技生活もその後の人生も豊かになる

学業と競技はどのくらいの割合で取り組んでいましたか?

当時はレスリングが7、学業3ぐらいの割合で取り組んでいたと思います。
ただ、大学時代にもっと勉強をしておけば良かったなと今は思っているので、6:4くらいにしておいた方が良かったのではないかなとも思うのですが、6:4にしていたらオリンピックに行けていないかもしれないので、何とも言えませんね。
ただ、練習時間は練習に集中する、授業を受ける時は授業に集中する、スキマ時間も結構たくさんあるのでそういった時間に勉強をする、というように時間にメリハリをつけることができれば、さらに自分を高みに行かせることができたのではないかと考えています。

勉強をすることで競技力が向上することはあると思いますか?

勉強が競技力に影響すると私は考えています。
レスリングのような個人競技でも、サッカーなどの団体競技でも、スポーツって頭が悪かったらあまり強くならないと思っているんですね。
なぜかと言うと、実際のプレーでも、トレーニングでも「考えること」がとても大事だからです。
勉強をすることは、数学の公式を覚えるとか難しい問題が解けるようになるとかそういうことではなく「勉強したことを理解するまでの過程」が大事だと思うんです。
その過程を考えられる子は、スポーツに関しても、レスリングにたとえれば「試合でタックルが入るにはどういうことをしたらいいのだろう」という思考になると思うんですね。
例えば、タックルが上手くなりたい子どもがいて、タックルが上手い人に質問をする時に「タックル上手くなりたいんですけど、どうしたらいいですか?」という質問のしかたではまだまだ足りなくて、「自分が現状、なぜタックルを取れていないのか」を分析して「じゃあ取れるようになるためにどう聞くのが良いのか」まで考えられる、その力を身につけるのが勉強だと思うんですね。
ですので、勉強ができる子とスポーツができる子はすごく比例してるのではないかと私は考えています。

大学に行くこと、大学で部活動をすることにはどんな意義がありますか?

「何で勉強するんだ」とか「勉強しなくても別に生きていけるからいいじゃないか」という話はよくある話で、別に否定もできないと思うのですが、私は人間みんな幸せになる義務があると思っていて、自分が幸せなのか不幸せなのかを考えた時に、それを左右するのは人間の「選択肢の数」だと思うんですよ。
例えば「旅行にいつでも行けるAさん」と「めったに旅行に行けないBさん」の2人がいた時に、コロナの影響で2人とも1年間旅行に行かなかったとした時に、Aさんにとっては「旅行はいつでも行けるし、別にいいか」と考え、Bさんは「コロナで感染者が増えて旅行に行けないな」と考える。
これはAさんもBさんも「旅行に行けない」というのは同じことなのですが、Bさんの方が少し不幸を感じているのではないかと思うんですね。
人に大切なのは選択肢があることで、いくつか選択肢を持っていることで、余裕が生まれ、それが人を幸せにするのだと考えています。
そして、その選択肢を増やすものが、私にとっては「勉強」なのではないかと思っていて、いろんな分野を勉強したり、自分の知らないことを知ることで、より自分の選択肢が増え、その選択肢を増やすことが心の余裕を生むからこそ、幸せになれるのではないかと思うので、勉強をすることには大きな意義があると思います。

努力は実る。そう思わせるのも指導者の役割

現在のスポーツとの関わりについて教えてください。

現在、ALSOKに所属していて、オリンピックには3大会連続で出場させていただきました。
ロンドンオリンピックは初戦敗退、リオデジャネイロオリンピックでは7位入賞。その後、東京オリンピックに出場させていただいたのですが、こちらの結果は振るいませんでした。
現在はパリオリンピック出場を目指して練習に励んでいます。
世界選手権でも銀メダルを獲得しておりますので、スポーツアスリートとしてのキャリアは積んできたのではないかと自負しています。
また自分がプレーするだけでなく、現在、母校の拓殖大学のレスリング部の監督も務めており、学生の指導等にも励んでいます。

指導をする上で大切にしていることは何ですか?

一生懸命頑張ってよかったと思ってもらえるような4年間にすることを大切にしています。
やはりオリンピックに出場するとか、全日本で優勝するとか、学生チャンピオンになるって本当に難しいことなんですよね。
部員が30人いたとして、部員30名全員がチャンピオンになることはない。
チームの中には強い子もいれば、あまり伸びない子、一生懸命やっている子など、あらゆる学生がいるのですが、上手であろうが下手であろうが、一生懸命やっている子がいることで、集団心理が働いて、今までやってこなかった子たちがだんだんやるようになることが多々あります。
しかし、そうやってチームがより良くなっていっても、やはり勝ち切れない子は少なからずいるので、そういった子たちに「頑張ったけど努力が実らなかった」と思ってほしくないなと考えているんですね。
ですので、一生懸命頑張った子たちには頑張ったご褒美と言いますか、卒業後の就職などが有利に働くように協力していきたいと考えていて、成績が残せなかったとしても、一生懸命頑張ったメリットを与えてあげたいと思って学生と関わっています。

オリンピック選手になるためには何が必要だと考えていますか?

自分で考えてプラスすることができる人がオリンピックを目指せるような選手になると考えています。
私が指導をする際、恩師の先生も一緒にいる中で私が練習メニューなどを決めているのですが、ある時、学生に少し長い期間休みを与えようと思って「じゃあ1週間休みにしよう」と言った時に、私の恩師の先生から「高谷な。学生らは高谷じゃないねん。お前は1週間休みを与えられたら、その1週間の中でも練習をするだろ?ただな、学生は1週間休みを与えられたら1週間休むんだ」と言われたんです。
私は「なるほどな」と納得しました。
例えば、与えられた定食だけを食べてる人間は多分オリンピックに行けないと思うんです。定食で出されたものに自分が何が必要なのかを考えてプラスできる人間がオリンピックに行けるんじゃないかなと。
もちろん食事だけでなく、全てにおいてそれができる人間がオリンピックを目指せるような選手になるのではないかと私は思いますね。

これから大学へ進む高校生へ

失敗を怖がらないでほしいなと思います。
例えば、「勉強はこのくらいやっています」とか「この大学に行くのは本当に大丈夫なのかな」とか「滑り止め落ちたらどうしよう」とか、そんな不安もたくさん抱えていると思うのですが、不安になる原因というのは「周りの評価」なのではないかと私は考えています。
実際、私自身、不安になる時の多くは「あの人から失望されたらどうしよう」とか「この人からこういう言葉を掛けられたらどうしよう」というようなことをよく考えてしまうんですね。
そういった周りの評価を気にすることが不安やネガティブな思考を生む原因になるので、それらを考えず、まずは自分のやりたいことをしっかりと決め、それに向かって「どういった勉強が必要になるのか」「どういった対策をするのか」をしっかり考えて、最後までやることができれば、みんな絶対褒めてくれると思います。
少なくとも私は必ず褒めます。
自分の信じた道を最後まで行けば、失敗は100%ありません。
周りが「失敗だ」「あいつミスったぜ」と言ってきたとしても、あなたにとってそれは全然失敗ではなくて、プラスになって必ず次に活きてきます。
自分の選んだ道を後悔しないように、これから勉強も大変になると思いますが、自分の道を信じて突き進んでいってください。

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